ダイヤモンドと塩ときみ

3/4
前へ
/121ページ
次へ
 わたしは夏学期の授業を思い出した。彼に自覚がない可能性は大いにある。はっきりと好きだと言われないと気が付かないかなそうだ(さすがにわたしからの好意は伝わっているだろうけど)。 「女性から共感を得られた覚えはあまりない。一ヶ月かけて作ったプレゼントを、意味が分からないと言われて突き返されてこともある」 「え、なにを作ったの?」 「三次元コンピューターグラフィックス」 「……」  うーん、それは確かに難易度が高いわ。わたしは欲しいけど。 「女性には何をプレゼントするのが正解なんだか……きみは何をもらいたい?」 「わたしはCGを貰ったらかなり嬉しいけど……そうね、一般的にはペンダントとか?」  先生はふーんと言った。あまり興味がなさそうだ。 「まぁとにかく僕は”草食系男子”なんて言葉がないときからそれだったし、相手が女性でなくても他人といるより一人でいる方を好むタイプだから」  そう言って自分の”モテなささ”を結論付けた。現実と乖離がありそうな結論を。だけど最後の一文はわたしも理解できた。人が嫌いなわけじゃないんだけれど、集団行動を好まない。一人が好きな気持ちはよくわかる。 「ん? なに?」  先生が黙ってわたしを見ている。 「……だけどきみは、僕にとってダイヤモンドみたいに大事な人だ」  わたしは飲んでいた白桃梅酒を吹き出しそうになった。吹き出さなかったけどむせた。先生はどうやら自分の発言でわたしが気を悪くしたか心配になったらしい。 「いや、ダイヤよりもっと生活必需品に例えたほうがいいかもしれない……水とか、塩とか」  塩と聞いてずるりと肩が落ちた。ダイヤは嬉しかったし、水までも悪くなかったんだけど。ただ、彼の言いたいことはわかる。わたしを口説いたり誉めりしたいわけじゃなくて、自分にとって大事なものだって伝えたいのだろう。  その真意がわかるから平気だけど、もし彼がダイヤも水も思い浮かばず、先に塩の例えを出していたら……過去の女の子たちから理解されなかったのが想像に容易い。
/121ページ

最初のコメントを投稿しよう!

173人が本棚に入れています
本棚に追加