第1章

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1979年のビートルズ――最初期の神林長平について  神林長平の第一短篇集『狐と踊れ』から、最初期の神林について、考えてみたい。  小松左京、眉村卓、伊藤典夫が選考委員をつとめた第五回ハヤカワ・SFコンテストで「狐と踊れ」が佳作を受賞、神林長平は〈SFマガジン〉七九年八月号にてデビューをはたす。  選考委員たちの「狐と踊れ」評はこうだった。 「ぼくはフニャフニャした印象があって、下読みの段階でAという評価がついてきたけど、それほどには喜べなかった。ただ、非常に変な小説で、それなりにおもしろくはある」(伊藤典夫)。 「社会構成がいい加減であるから、いい加減なムードが流れていて、ある意味で整合性があったということですな。それでパッと点がよくなったけれども、いろいろ突っ込んで考えると、それがもし全力を挙げてやわな部分を書いたんだったら、これはガタッと評価がさがりますな」(眉村卓) (いずれも〈SFマガジン〉七九年九月号より引用)。  このとき、もっともすぐれた賞である「入選第一席」をあたえられたのが野阿梓の「花狩り」である。 「花狩り」と「狐と踊れ」のクオリティにはおおきな差がある――というのが選考会での一致した意見であった。  いまや「日本SFを代表する作家」といえばまっさきに名のあがる神林長平も、デビュー作の応募時の評価はこのていどのものだった。  ぼくたちはわすれる。  神林長平にも、無名の新人時代があったことを。 『狐と踊れ』が、二八歳の新鋭作家による、はじめての著作であったことを。
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