第1章

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冷たい収穫――虚淵玄は二〇世紀最後の活劇たちをいかに血肉としたか  ハードボイルドは「非情のリアリズム」とよばれ、善もなく悪もなく、強者のみが生きのこる冷酷非情の現代を書くのである。  非情であるからには、正義とか善意とかいうものを容易に信ぜず、世を支配している既成概念に対するいくばくかの信頼を叩きつぶし、甘いセンチメントを拒否するのだ。 大藪春彦『歯には歯を』あとがきより  殺しの精神史を語ろう。 暴力が爆発するアクション・エンタテインメント――「活劇」を主人公にした彷徨の物語を。 活劇の魂を宿した男・虚淵玄に託しながら……。 ■問題設定――虚淵玄と二〇世紀最後の活劇たち 一九七二年うまれの虚淵玄は、八〇年代に思春期をすごした。  彼の趣味嗜好は、八〇年代から九〇年代にかけて摂取したものでできている。  ゲームシナリオライターとしてのデビュー作『Phantom PHANTOM OF INFERNO』は、二〇〇〇年発表。二〇世紀最後の二〇年にインプットを蓄積してきた虚淵は、二一世紀にはアウトプットする側にまわっていく。  二〇代までに喰らってきたもので、彼は三〇代以降の作家人生を闘っている。  彼のルーツをひもとくことは、八〇年代と九〇年代の作品を読み解くことに等しい。  虚淵作品を読み解くことは、彼が青春時代に触れた作品をいかに自らのものとして血肉化させていったのかを考えるに等しい。  とはいえ、八〇年代のものを二〇年以上経ったあとでそのまま出したところで、受け容れられるはずがない。  しかしそれでも虚淵玄は代表作『魔法少女まどか☆マギカ』の路地裏での戦闘シーンなどには菊地秀行の影響がある、と言う。  つまりインプットだけを問題にするわけにはいかない。  時代の変化にあわせてアウトプットを変容させられるかどうかも作家の資質を考える上で問題となる。  そしてまた、歴史/時代という縦軸で見るだけでなく、やはり近しいインプットをしてきた同時代の才能たちとの比較――横軸から切ることも必要だろう。
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