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――墨を流し込んだような歪んだ闇の中。
何ひとつとして形のあるものを識別できない中、遠い向こうに僅かな光を見つけ、真黒な地面を蹴って夢中で駆け寄った。
――「あ、良かった、目覚められましたか?」
光とどこか懐かしさを覚える声に導かれるように重く閉ざされた瞼を開けると、一気に光が差し込み、あまりの眩しさに開きかけた瞼を再び閉じた。
「あ、眩しかったですか?もう大丈夫ですよ」
言われてゆっくり目を開けると、徐々に定まっていく視界の先に、一人の若い男性が心配そうに眉間にいくつも皺を寄せてワシの顔を覗き込んでいた。
誰じゃ……?
見たこともないその男性は、恰幅の良い大きな体の上にお月様のように丸い顔。浅黒い肌の中心には、輪郭同様に丸い鼻。上に吊り上がった太い眉毛の下には切れ長の瞳。
その男性は、ワシの顔に光が差し込まぬよう大きな背中を丸めて、ワシの顔を覗き込むような形で光を遮ってくれていた。
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