90(続き)

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「くそっ、嫌味な野郎だぜ。あいつ、タツオのこと意識して、同じように横沢の鼻を折りやがった」  相手が止まっているのなら、いくらでもダメージを残さずに倒す手などあるだろう。それでもカザンは冬獅郎の鼻を折った。カザンの性格には幼い頃から嗜虐(しぎゃく)的なところがあった。トンボの羽をちぎり、アリの巣に洗剤入りの水を洪水のように流しこみ、ヒキガエルの腹を三角定規の角で無理やり裂く。この少年がいつか進駐軍のトップに立ったら、組織はどんなふうになるのだろうか。  カザンは潰れて血を流す冬獅郎の鼻を観察している。楽しげにいった。 「鼻血ってこんなふうに流れるものなんだな。つまらん、あまり派手(はで)じゃないな」  タツオはつい叫んでしまった。 「よせ、カザン」
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