90(続き)

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 東園寺の双子の兄は止まらなかった。遠投でもするようにおおきく右手を引いて、折れている鼻めがけて拳をもう一度ぶちこんだ。  クニがあきれたようにいう。 「あーあ、ひでえな。あんなのもう一発くらったら鼻の形はもう元にもどらないぞ」  再び軟骨の砕ける音が鳴る。カザンの残酷さに広い柔術場が静まり返った。 「横沢、がんばれー!」  同じ班の生徒から声援が飛んだが、誰もが勝負の行方(ゆくえ)を疑ってはいなかった。カザンが秘伝の「呑龍」を発動したときから、これは試合ではなく一方的な打撃練習である。冬獅郎に反撃のチャンスはなく、サンドバッグのようにパンチを受け続けるしかないのだ。 「そろそろ終わらすか」  カザンが斜め前方から、冬獅郎のあごの横を強く殴(なぐ)りつけた。当たりが悪かったようだ。カザンは自分の拳を振るといった。
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