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「痛てえな。ただの的のくせに骨が硬いんだよ。いくぞ、もうひとつ」
今度は右の拳がこめかみに正確にヒットする。カザンも幼時から各種格闘技は近衛(このえ)四家のたしなみとして叩(たた)きこまれている。力みのないきれいな正拳突きだった。この技をもっているのに、正面からは闘わず秘伝をつかったのだ。クラスメイトはみな息をのんで、試合の終幕を見守っていた。冬獅郎は右腕を引いたまま、その場にゆっくりと崩れ落ちていく。沈んでいく船のようだ。
「審判、カウントはいらない」
カザンは畳の上を滑るようにもどっていく。
試合場をおりるとき、タツオのほうを向いて一礼した。
(つぎはおまえだ)
耳元でそんなふうにいわれた気がする。
「そうだ、忘れていた。『呑龍』を解いておこう」
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