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ジョージがぽつりといった。
「タツオ、カザンの技をしっかり見ていたか?」
「ああ、なんとか」
「からくりに気づいたかな」
あれほど凄惨(せいさん)な試合を見せられても、ジョージは冷静に東園寺家の秘伝を解析(かいせき)していたのだ。恐るべき同級生だった。
「『呑龍』はある種の催眠術のようなものじゃないかな。相手の脳神経系に作用して、反射や判断のスピードを極端に遅くする」
タツオは座りこんで、見あげているしかできなかった。ジョージは興奮していう。
「口でおかしな調子の歌をうたい、左手で腰を叩いておかしな拍子をとり、踏みだした右脚で予測できないリズムを刻む。そのみっつの変拍子で相手を強制催眠に誘うんじゃないかな」
そのみっつの異様なリズムならタツオも気づいていた。
「まったく同調しないみっつのリズムかあ……」
あんなものをどうしたら破れるのか、タツオには想像もできなかった。ジョージが真顔でいった。
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