90(続き)

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「いや、誰も気づかなかっただろうが、カザンはもうひとつのリズムを刻んでいた。まばたきだ。ほかのみっつとはぜんぜん異なる拍子でカザンまばたきをしていたよ。それぞれ違うよっつのリズムを一斉に発動していた」  最後の試合が終わって、生徒たちは潮が引くように柔術場を離れていた。テルがばちんと畳を叩いていった。 「カザンはクソみたいなやつだが、それだけの実力があるって訳か。おれたちの誰がやっても、あんな技にかかっちまえば勝ち目はないな」  クニが自分の身体を抱いて震えてみせた。 「おれは先に負けといてよかった。カザンのやつ、うちの3班には厳しいから半殺しにされちまう」  ジョージはひとり冷静だった。 「おもしろいと思わないか。逆島(さかしま)家の『止水(しすい)』は体内感覚を強制的にクロックアップさせて、異次元の肉体スピードと判断の速さを生みだす。それに対して東園寺家は、あの変拍子のリズムで敵を強制催眠に陥(おとしい)れ、スローダウンさせてしまう。まったく対照的な技だったんだな」
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