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「ぼくは殴り倒されるくらい。でも、タツオは違うだろう。暁島会(ぎょうとうかい)との闘いもあるし、亡くなった浦上くんの恨(うら)みもある。試合の上での死亡なら、学校側も表だって文句はつけられない。訓練中の事故という形で、二階級特進させて終わりだ。タツオには生命の危機がある」
「……ああ、そうだね」
砂を噛(か)むような思いで、ひと言返すのが精一杯だった。カザンは本気で自分を倒そうとしている。殺したいほど憎んでいるかもしれないし、そこまでいかなくとも進駐官としての未来を閉ざすほどの障害を与えようと決心置ているのはよくわかった。自分へのあてつけのためだけに、整形手術が必要なほど恨みもない冬獅郎の鼻を潰(つぶ)したのだ。血まみれの宣戦布告だ。
なんとかこの危険な罠(わな)を切り抜ける方法はないのだろうか。「呑龍」を破る手は見つからないものか。トーナメント本選がおこなわれる学園祭まで一週間を切っている。タツオは冷えびえとした思いと恐怖に痺れて、柔術場の板の間に立ち尽くしていた。
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