第五話 夢幻の館

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第五話 夢幻の館

薄暗い廊下を双子に連れられ歩き続ける。 体に巻き付けた毛布をきつく抱き締めたまま、ただ二人の後を付いて行った。 途中、鉄で出来た頑丈そうな扉がいくつか見えるが、そこからは何の音も聞こえない。 しかしそこからは重苦しく禍々しい不穏な気配を感じる気がした。 途中何度も重たく厳重な扉を抜け、その度に少しずつ私の鼓動が速まって行く。 恐らく五個目の扉を抜けたその時、急に射し込んだ眩しい光に思わず顔を腕で覆った。 それと共に何処からか甘い香りと……誰かの声が聞こえる。 「……ここは」 茫然と目の前の光景を見つめたまま、小さく声を漏らす。 何処までも続いている様に見える真っ赤な絨毯の敷かれた長い廊下。 その廊下にはアンティーク調の小さな机が置かれ、そこには美しい花が活けられている。 大きなガラス張りの窓には絨毯と同じ血の様に赤いカーテンが閉められていた。 そして茶色の扉がどこまでも規則正しく並び、そこから誰かの悲鳴の様な声が聞こえた様な気がした。
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