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「……あ~あ。邪魔が入った様だ」
男は残念そうにそう言うと、私から体を離しズボンのポケットから携帯電話を取り出した。
男の手に握られた携帯電話から、不思議で……何故か悲しく感じる旋律が聞こえて来る。
……この曲……知っている。
……でも、どうしてこの男が……
茫然と男を見つめる私を無視して、男は携帯電話の通話ボタンを押す。
「もしもし……ああ……そうか。分かった……今行く」
男はそれだけ言うと携帯電話を切った。
「悪いけどお前と遊ぶのはまた後でになった」
男はそう言って地面に落ちている毛布を拾うと、それを私の体に掛ける。
「ここに迎えをよこす。そうしたらそいつの言う事をよく聞いていい子にしていろ」
男は私の耳元でそう甘く囁くと、そのまま部屋から出て行ってしまった。
コツコツと次第に離れて行く男の足音を聞きながら、体の震えを必死に抑える。
これは……本当に現実なのだろうか。
天井の電球を見つめたまま、そんな都合のいい事を考える。
酷い悪夢であったならどんなに良かった事だろう。
しかしこれは紛れもない現実で、私は確かに薄暗いこの部屋に囚われている。
……どうしてここに居るのだろうか。
……ここは一体、何処なのだろうか。
……あの男は……誰なのだろうか。
一瞬の内に様々な問い掛けが頭を過るが、その答えは一向に出ない。
それにどうしてあの男は知っているのだろうか。
……あのメロディーを。
ユラユラと揺れる電球を見つめ、そっと目を閉じると……深い闇の中を誰かの眩しい笑顔が過った様な気がした。
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