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すれ違いながら、横目で女の子を見た。
やっぱりすごく可愛い。
流れる涙をぬぐう指先が細くて白い。
絆されないほうがどうかしてる……そう思った。
「星影」
ポケットに手を突っ込んだ先輩が、身体を回すとオレの横に並んで付いて来る。
「どこ行くの?」
「いいんですか?」
質問を無視して、冷たく呟く。
「断るしかないのに、構っちゃうと期待させちゃうだろ?」
「断ること……ないじゃないですか」
「なんで?付き合ってる子いるのに……だめじゃん。そんなの」
俯いて、ぎゅっと歯を喰い縛った。
早足になりそうな足を宥めて、努めてゆっくり歩く。
『先輩のお気に入り』が不機嫌になっているって、誰かにそう思われたくない。
オレが嫉妬するとか、どう考えたっておかしいから。
「な、どこ行くの?」
「理科室です」
意識して微笑みを浮かべる。
嘘は得意だ。何も感じないふりをするのは。
「へ~」
先輩がゆっくりと歩く。
教室に戻らないといけないからだろう。
それに併せて歩調を緩めた。
クラスメイトがそんなオレたちを横目に追い抜いて行く。
月村先輩は学校の有名人で、オレはその後輩で、ルームメイトで、『お気に入り』。
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