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そして『お気に入り』と一緒の所を邪魔されると不機嫌になるっていうことは、もう知れ渡っていて。
だから、こういう時のオレには誰も声を掛けない。
角を曲がって、理科室へ続く廊下に出ると、もう廊下には誰もいなかった。がやがやと音が聞こえる理科室は家庭科室の向こうだ。
「授業に遅れますよ?」
先輩が手前の家庭科室の扉を開けている。
次の授業、隣だったんだ。
そう思った時には腕を引かれて、中に押し込まれていた。
家庭科室には誰もいない。
かしゃって音がして、鍵がかかったと気付く。
うろたえる間もなく背中に扉を感じた。
ぐいっと下に引かれて、尻もちをつく。
「った……」
扉に凭れて膝を立てて座っているオレの上に先輩がのしかかって来た。
茶色い先輩の髪が頬に触れて、息を飲む。
偽りの微笑が口元から吹き飛んで、素顔のオレが現れる。
何やってるんだ。
しっかりしろよ。
「星影……」
自分を叱り付ける自分の耳元に、誘惑そのものの声が響いた。
こんなとこでやめてくださいよ。
微笑んでそう言いたかった。
でも、オレの表情は固まって、声は喉に張り付いたままだった。
「キスして?」
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