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柔らかい声がオレに促す。
オレの方から?
……それはずるい。ずるすぎるだろ。
俯きそうになったオレの顔を先輩の指がすくい上げる。
「……して?」
キスなら何回もしていた。
有言実行を貫いて、まるでそれが何かの儀式ででもあるかのように、先輩はいつも寝る前のオレにキスをする。
狭いシングルのベッドの中で、2本のスプーンのように寄り添いながら、悪戯な指先が身体に触れるのも許していた。
その優しげな声が求めることを忠実にこなし、いい子だと囁く物憂げな声を聞きながら、お返しにと全身にキスされたこともあった。
超えていないのは最後の一線だけだ。
そこまで許していながら、オレは頑なに自分の言葉に拘っていた。
ちゃんと付き合うのは、夏休みの後。
だから、オレは先輩にキスしたことがなかった。
それは許されないことだと思っていた。
だって、先輩はオレのものじゃない。
だから、触れることは許されない。
月村先輩はすぐに彼女が変わることで有名な人だ。
休みの前と後で彼女が違う月村和泉。
そんな人が何故オレに執着しているのか。
それは……どこまで続くのか。
告白されて浮かれた気持ちが落ち着くと、オレは先輩の気持ちや、自分の気持ちに怯えるようになり、また前のように仮面を被るようになった。
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