第1章

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彼女がもう一度頭を下げて立ち去るのを見送ったけど、なんだかドキッとした気持ちはなかなか落ち着かなかった。 大きく息を吐いて少しの間目を閉じる。目を開けた僕は譜面にペンを滑らせていた。 時折立ち上がってピアノに向かう。頭の中の旋律を確認するために鍵盤を叩き、思っていた音と違う箇所もあるからそこを修正し譜面も書き直していく。 僕がもう一度ソファーに座り直し、書き上げた譜面を見つめたのは三時間程過ぎた頃だった。 いつもこうだ。曲を書き始めると時間を忘れてのめり込んでしまう。でも思った通りの曲が出来上がった時の高揚感は何物にもかえることができないものだ。 僕は立ち上がると部屋を出た。 『お出掛けですか?』 水森さん…いや、雪さんが声をかけてくれたから、僕は少し外の空気を吸ってきますと言って外に出た。 たまに気分を変えたいのもあって散歩に出掛けることがある。スタジオのあるビルから少し歩いたところに小さな公園があって、そこは僕の秘かな息抜きの場所になっていた。 都会の片隅にある小さな公園。そこはビル群の中にある、本当に小さな憩いの場所だった。冬でなければ青々とした緑を見ることもできるんだけどな…
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