第1章

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それから数日、僕はスタジオにこもっていた。 午前中から下手すれば深夜まで缶詰になることもあるが、その間雪さんがスタジオから離れることはなかった。どんなに前日夜遅くなっても、朝早く使いたいと言えば僕より早くスタジオに来て準備をしてくれる。 そう言えば、スタジオに来て寒いと思ったことがない。そしてある日、僕がスタジオに入ると雪さんが花を飾っていた。 色とりどりの花々を見つめる彼女はいつもより柔らかい表情で…僕はそんな彼女に見とれていた。 『おはようございます、アツシさん』 彼女を見つめてぼーっとしていたら、彼女が僕に気がついて声を掛けられた。 『おはよう、雪さん』 『今日はお早いですね。今コーヒーを…もしかして昨日飲まれましたか?』 言われて驚いた。顔に出るほど飲んでいないつもりだったのに… 苦笑いを浮かべる僕を見て彼女はくすりと笑う。 『お茶にしますね』 まいったな…なんでもお見通しみたいだ。 彼女が部屋から出ていって、僕は彼女が活けた花を見つめる。 そう言えばアルバム製作時にもいろんな花が活けてあったなぁ。あれは彼女が持ってきてくれていたのか…
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