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雪さんは携帯をソファーにぽんと投げると大きなため息をついた。ソファーの背もたれに頭を乗せて天井を見つめていた彼女がふと言葉を漏らした。
『可愛いげのない女か…そうよね…』
少しだけ涙声の彼女。
さすがにこんな場面で入っていけない。雪さんの声が今までに聞いたことのないような、寂しげな声だったから…
失恋の曲や、悲恋の曲を歌ったりするけど…他人の、しかも女性の別れのシーンに立ち会うことなんてそうそうあるもんじゃない。
自分だったらこんな時、一人になりたいと思う。きっと彼女も…
僕がゆっくりと部屋の扉を閉めようとした時、雪さんがソファーに投げた携帯を手に取った。そのまま携帯を操作して、彼女が耳許に携帯を運ぶ。
そして、僕の携帯が鳴った。その音に驚いていると彼女が振り返る。
『アツシさん?』
この状況では誤魔化しはきかない。僕は閉じかけた扉を開いた。
彼女に近づいて困ったように見つめる僕に、雪さんが譜面を差し出した。
『今日中に仕上げたいだろうと思ったので電話したんですが…お忘れになったの気づかれたんですね』
そう言った彼女はもうさっきの彼女じゃなかった。いつも通りの彼女…
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