第2章

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『ありがとう。あの、雪さん…』 躊躇いがちな僕の口調に雪さんは口許を緩める。 聞くなって雰囲気ではないけど、あまりにもいつも通りの彼女の様子に僕の方が狼狽えている。 『聞きたければどうぞ』 雪さんはふっと笑って僕を見つめる。 『見ていたんですよね?』 『…うん』 なんかイタズラが見つかった子供みたいに下を向いている僕に、雪さんは明るく言った。 『仕事を優先しちゃう女は恋人と長続きしないんです。いつものことですから…』 そう言って彼女は笑う。 そうか…これは仕事の顔なんだ。 なら、さっきの彼女は? 僕は雪さんに近づいて彼女の腕を掴んだ。 『アツシさん?』 戸惑いを浮かべたような声で僕の名前を呼んだ彼女を、僕は抱き締めていた。 『あ、あの…』 『可愛いげのない女性なんかじゃないよ…』 だって君は花を見つめて優しく微笑んでいた。時折、僕の歌を聞いて子供のような顔を見せていた。 あの時の君の顔は…仕事の顔じゃなかったはずだ。
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