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『アツシさん』
小さな声で僕の名前を呼んだ君の声はさっきと同じ、寂しさを帯びた声だった。
『別れが辛くない恋なんてないから…だから素直になっていいんだよ』
僕がそう言うと、彼女は僕の胸に手を当てた。少しだけ俯いた君は…僕の胸を涙で濡らす。
『…』
僕が彼女の背をぽんぽんとゆっくり叩いていると、雪さんの嗚咽が少しずつおさまっていく。
『ありがとうございます』
雪さんはそう言うと顔を上げた。頬を手で拭う彼女から手を放すと、彼女はソファーに座った。
『すみません…こんな姿を見せてしまって』
『素直になれと言ったのは僕だから気にしなくていいよ』
『でも…』
見上げる彼女に僕は笑って見せた。
『もっといろんな表情を見せてほしい…』
僕の言葉に雪さんの目が丸くなった。
『あ、いや…傷ついてるところにつけいろうとか、そんなつもりはないから』
僕が慌てて言うと雪さんは吹き出していた。
『そんなこと思ってませんから…』
そう言って笑う彼女に僕の心が激しく音を鳴らした。まるでピアノの鍵盤を叩いた時のように…僕の心は弾んだんだ。
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