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不思議そうな顔をしている僕に気づいたのか葛西さんが言った。
『アツシくん、今このスタジオのおかげかなって言っただろ?』
『ええ』
それがどうしたんだろう?僕の疑問はさらに募るばかりだった。
葛西さんは彼女の肩をぽんと叩くとにやりと笑う。
『実は今回のアツシくんのアルバム制作中のことは雪に任せたんだ。僕は顔を見せはしたけど、一切ノータッチだった。それでアツシくんがアルバムを気持ちよく作れるかどうか…雪をテストしたんだ』
彼女のテスト?
でも今回僕はかなり制作に集中できた。それはつまり彼女のおかげだったってことか…
僕は彼女をまじまじと見つめた。その視線のせいか彼女は少しだけはにかむように笑って俯いた。
『アツシくんが少しでも不愉快な思いをするようならテストは中止するつもりだったんだけど…いらない心配だったね』
葛西さんはそう言うともう一度彼女の肩を叩いた。彼女は顔を上げて葛西さんににっこりと微笑んだ。
『ありがとう、水森さん』
僕が一歩前に出て手を差し出すと彼女は慌てて僕の手を握る。
『アツシさんにお礼を言われるなんて…光栄です。これからもよろしくお願いいたします』
彼女は手を放すと丁寧に頭を下げた。
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