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『今日はこのまま制作にかかるのかい?』
葛西さんに聞かれ僕は頷いた。
『じゃ、雪。アツシくんに飲み物を…』
『はい』
彼女はまた丁寧に頭を下げて僕たちに背を向ける。その後ろ姿を見送って葛西さんに視線を戻した。
『彼女のせいだったんですね…』
『ん?なにがだい?』
僕がふと漏らした呟きに葛西さんが尋ねる。僕は制作の時、このスタジオが初めて使うスタジオのように感じたことを葛西さんに話した。
『なんでか不思議だったんです…でも何が違ったんだろう?』
僕の疑問に葛西さんは微笑みで返し
『そのうち分かるさ』
と曖昧な返事をされた。葛西さんは新スタジオの方に行くと出ていってしまい、結局前と何が違うのか、その答えはわからずじまいだった。
僕はソファーに腰をおろし、鞄から譜面を取り出した。
まっさらな譜面と向き合うといろんな旋律が頭を埋めていく。だが、その中から一つの曲として完成する旋律を繋ぎ合わせるのは簡単な作業ではない。
僕は譜面を見つめて腕を組んだ。
コトッと音がしてテーブルにコーヒーが置かれた。
『お邪魔してすみません』
僕が顔を上げると水森さんが申し訳なさそうに眉を下げていた。
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