第二十四話 宵の誘い

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「譲様!」 急に聞こえたその呼び声に、封筒から顔を上げる。 すると彼の後ろに走り寄って来る二つの影が見えた。 「ルイ、レイ」 小さく二人の名前を呼ぶと同時に、二人は私の目の前まで走り寄って来る。 そして二人は私の手に握られている白い封筒を見ると、非難の視線を榊原さんに向けた。 「どういう御積りですか?隼人様は茜様を夜光会には連れて行かないと仰っていたはずですが」 そのレイの問いに榊原さんは小さく首を傾げて見せる。 「お前達こそ何を言っているんだ?夢幻王の傍に愛玩物を置くのはこの夢幻楼の常識。斎賀(さいが)様もそうやって隼人様をいつも傍に置いていたではないか」 その彼の答えに、二人はグッと息を呑む。 「しかし隼人様が望まない事を勝手になさっては……」 「構わないさ。隼人様は少し迷っているだけだ。茜様に触れた事で、外の世界の感傷に浸っているだけに過ぎない。あの御方にはこの世界の王である事を思い出して頂かなくては困る」 ルイの言葉を遮り榊原さんはそう言うと、真っ直ぐに私を見つめた。 「貴女にもこの世界に染まって頂かなくては困るのですよ。でなければ貴女も……そして隼人様も苦しむ事になる」 彼はそう言うと表情を曇らせる双子を冷たい瞳で見つめる。 「お前達もそれはよく分かっているだろう」 「……はい」 榊原さんの言葉に双子は小さく答えて返すと、そっと地面に視線を落とした。 「では……茜様の支度はお前達に任せる」 榊原さんはそれだけ言うとそのまま館へと向かって行く。 離れて行くその黒い後ろ姿を見つめながら、ただ茫然と白い封筒を握り締めていた。
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