第二十五話 悲しき王

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《……あれが隼人君の……》 《何でも片瀬の娘だそうじゃないか》 《……流石の片瀬も夢幻王には敵わないか》 そんな誰かの囁きが耳に届き、私を嘲笑う様な吐息と不快な視線を感じる。 「茜様、こちらです」 ルイのその言葉に促される様に好奇の視線の中を進んで行くと、部屋の一番奥に座っている男の姿が目に入った。 三人は座れそうな赤いソファーの端に気だるそうに座る彼は……私の姿に気付いたその瞬間、少し驚いた様に目を丸くした。 「茜……どうしてここに」 彼はそれだけ言うと困惑した様に瞳を揺らし、それから彼の後ろに立つ……眼鏡の男に鋭い視線を向ける。 「榊原……これは一体どういう事だ」 彼は刺す様に鋭い視線を榊原さんに向けると、小さく首を傾げて彼の答えを待つ。 「質問の意味が分かりません」 榊原さんはそう素っ気なく答えると、こちらに向かって目配せをした。 それに促される様に双子は私をそっと彼の隣へと座らせる。 隣と言っても彼に身を寄せるのが躊躇われ、ソファーの端へとちょこんと腰を下ろした。 「俺は茜を夜光会には連れて行かないと言ったはずだ」 彼はそう言って私から視線を外すと、深いため息を吐く。 「茜様は貴方の愛玩物だ。それを貴方の傍に置くのは当たり前の事でしょう?それにお客様も一向に姿を現さない彼女の存在を疑っている方も多い。ここで茜様の立場を理解させた方が賢明なのでは?あやふやなままでは……茜様が困る事態になりかねません。賢明なご判断を……夢幻王」 榊原さんはニヤリと不敵な笑みを浮かべてそう言うと、男に向かって小さく頭を下げる。 その榊原さんの答えに男はまた深いため息を吐くと、それからそっと榊原さんを振り返った。 「お前が本当に言いたい事は分かっているさ……榊原」 そう言って男は自嘲気味に笑う。 「それならばこれ以上私が申し上げる事はございません」 榊原さんはニヤリと笑ってそれだけ言うと、彼に深々と頭を下げその場を離れて行った。
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