44人が本棚に入れています
本棚に追加
「……あ、茜様」
急に名前を呼ばれ顔を上げると、少女は少し緊張した様に小さく口を開いた。
「茜様は……その……は、隼人様の……あの……えっと……ち、寵愛を受けている御方なのでしょうか?」
その彼女の問いに微かに表情を曇らせると、少女はハッと目を見開いた。
「す、すみません!失礼な質問をしてしまって……」
「いいの。気にしないで」
泣きそうに顔を歪めて必死に謝る彼女を遮り、ニッコリと笑みを返す。
すると彼女は私の態度に安心したのか、ホッと息を吐いて窺う様に私を見つめた。
こんな風に誰かの機嫌を窺ってしまうのは……この夢幻楼に居る者ならば誰しもが勝手に身に付いてしまう癖なのかもしれない。
現に私もあの男の手に落ちたその時、あの男の機嫌を窺う様に従順に振舞った。
あの時の哀れな自分の姿と、この傷だらけの少女の姿が重なって見え、それは私の心を酷く掻き乱す。
最初のコメントを投稿しよう!