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「寵愛……か。……そんなのじゃない。そんなモノでは……決してない」
少女の手当てをしながらそう小さく呟き自嘲気味に笑うと、少女は意味が理解出来なかったのか小さく首を傾げて見せる。
「でも茜様は双月館を歩き回れる自由を与えられていますよね?それは本来ならば《SSS(トリプル)》の商品ですらなかなか許されない特権。それにあの総支配人が隼人様以外の方の話を聞くなんて……私にはとても考えられなくて」
そこまで言って少女は口を噤むと、静かに私を見つめた。
「……本当にそんなものではないの。私もいつどうなるか分からない身だから」
そう言って困った様に笑って見せた……その時だった。
バタバタと誰かが廊下を走る足音が聞こえる。
その足音に少女はさっきの男達の姿を連想したのか、表情を硬くし身を竦めた。
その慌ただしい足音は真っ直ぐにこの部屋へと向かって来る。
しかし私には、その足音の正体が……何となく分かっていた。
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