第二十四話 宵の誘い

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リイサはこの夢幻楼に来てまだ半年しか経っていないらしい。 そのせいか無表情でロボットの様な人間が大半のこの夢幻楼で、表情も感情表現も豊かな彼女からは人間らしさを感じる事が出来た。 リイサと話している間は、ここが歪んだ世界である事を忘れる事が出来る気がする。 私が今まで暮らしていたあの世界と同じ話題を、彼女とは共有する事が出来た。 ルイやレイともよく話すが、彼等はここでの生活が長いせいか、外の世界の事を全くと言っていい程知らない。 それとは対照的に私の話に付いてきてくれるリイサの存在に……私は少し安らぎを感じていた。 彼女は家の莫大な借金の返済の為にここに売られてきたそうだ。 元々は学生だったらしいが、ある日突然この夢幻楼に連れて来られたと聞いた。 それからこの狂った世界で一体どんな仕打ちを受けて来たのか。 初めて会ったあの時に見た、彼女の痛々しい姿を思い出し、微かに唇を噛み締める。 「茜様?どうかなさいましたか?」 不思議そうに私を見つめるリイサの呼び掛けにハッと顔を上げると、慌てて首を横に振った。 「ううん。何でもないの」 「そうですか?顔色が悪い様に見えたので」 そう言ってリイサは心配そうに私の様子を窺っている。 「本当に平気。それにしても……今日も二人は来ないね」 ニッコリと笑みを返し話題を逸らすと、リイサは同じ様に笑みを返してコクリと頷いた。 最近あの双子は何かと忙しそうで、なかなか私の前に姿を現さなかった。 ……何かの準備が忙しいとか言っていた気がする。
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