45人が本棚に入れています
本棚に追加
「黒咲グループの御曹司だ。彼の家は曽祖父の代からこの夢幻楼の上客でな。特に彼の落とす金は莫大な金額だ」
男の説明にそっと黒咲さんに視線を戻すと、黒いソファーに座る彼の横にちょこんと女の子が座っているが見えた。
その女の子はこの場に居る他の女の人達と少し違っていて……とても不機嫌そうに眉を顰めている様に見える。
「彼はああやってこの夢幻楼に馴染めなさそうな商品ばかりに手を出すんだ」
「……馴染めない?」
「商品も所詮は人間。色々と困った奴らも出てくる。堕ちてしまえば楽なのに、頑なにそれを拒む商品が稀に居る。そういう商品は客受けも悪いし、使い勝手も悪い。なのであまりにも不向きの場合、すぐに廃棄行きになってしまう事が多い」
男は淡々と説明すると、呆れた様に笑った。
「そんな商品ばかりを彼は買うんだよ。そして自分の手でこの世界の生き方を躾けている。それが出来ない商品には残酷な《死》が待っているだけだからな。彼なりに何かを……《救っている》つもりなのかもしれない」
そう言って男はクスクスと嘲笑を浮かべると、それから困った様に息を吐いた。
「それに最悪な事に彼は、結局順応出来そうにも無い商品は買い上げて、外の世界に逃がしたりもしている」
「でもそんな事したらここの事、世間にバレて……」
「逃げた女は絶対にここでの事を口にはしない。そんな事をしても揉み消されるだけだし、それにせっかく手に入れた自由も命も失いかねない。利口な女ならそんな馬鹿な真似はしないだろう。そして彼はそんな馬鹿な女に金を使う様な男じゃない」
男はそう言うと、静かに黒咲さんを見つめた。
黒咲さんは隣に座る女の子にお酒を勧めているようだが、当の彼女はツンと顔を背けたまま小さく身を丸めていた。
それに彼はヤレヤレと肩を竦めると、私に向かって困った様に笑う。
「お前と一緒で《お人好し》が過ぎる男だ。いつか痛い目を見る事になる」
男はそれだけ言うと悲しそうに笑って私を見つめた。

最初のコメントを投稿しよう!