第二十四話 宵の誘い

1/5
45人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ

第二十四話 宵の誘い

リイサが私付きの侍女になって、一週間が経った。 あれからやはり男は私の前に姿を現さず、私は何も変わらない穏やかな日常を過ごしていた。 「茜様、今日はこんなにお天気もいい事ですし、中庭で紅茶でもいかがでしょうか?」 そう言って窓際に立っていたリイサは、眩しい笑みを浮かべて私を振り返った。 「そうだね。そうしようか」 リイサにニッコリと笑みを返すと、リイサはコクリと頷いてティーセットの用意を始める。 リイサは外に出られる事が嬉しいのか、小さく鼻歌を歌いながらご機嫌に支度をしていた。 その無邪気な可愛い姿に微かに笑みを浮かべると、リイサはその私の笑みを見て不思議そうに首を傾げた。 ティーセットを二人で持ち双月館の中央階段を下りると、外へと続く大きな赤い扉が目に留まる。 その扉の前には黒いスーツのいかつい男が二人立っていて、彼等の鋭い視線が私達に向けられた。 しかし男達は私に向かって小さく頭を下げると、そっと扉を開いてくれる。 「ありがとうございます」 そう小さく礼を言って扉の隙間を抜けると、眩しい太陽の光に包まれた。 抜ける様な青い空には眩しい太陽が燦々と輝き、手入れの行き届いた美しい庭を照らしている。 その遥か彼方にある灰色の高い壁さえなければ、ここはとても素晴らしい場所だと思ったかもしれない。 そんな事を考えながら中庭に置かれている白いテーブルにティーセットを並べると、リイサは手際よくカップに紅茶を注いでいく。 それから甘いチョコとバニラのクッキーが並べられ、それを食べながら二人で他愛も無い話をして笑い合った。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!