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第二十四話 宵の誘い
リイサが私付きの侍女になって、一週間が経った。
あれからやはり男は私の前に姿を現さず、私は何も変わらない穏やかな日常を過ごしていた。
「茜様、今日はこんなにお天気もいい事ですし、中庭で紅茶でもいかがでしょうか?」
そう言って窓際に立っていたリイサは、眩しい笑みを浮かべて私を振り返った。
「そうだね。そうしようか」
リイサにニッコリと笑みを返すと、リイサはコクリと頷いてティーセットの用意を始める。
リイサは外に出られる事が嬉しいのか、小さく鼻歌を歌いながらご機嫌に支度をしていた。
その無邪気な可愛い姿に微かに笑みを浮かべると、リイサはその私の笑みを見て不思議そうに首を傾げた。
ティーセットを二人で持ち双月館の中央階段を下りると、外へと続く大きな赤い扉が目に留まる。
その扉の前には黒いスーツのいかつい男が二人立っていて、彼等の鋭い視線が私達に向けられた。
しかし男達は私に向かって小さく頭を下げると、そっと扉を開いてくれる。
「ありがとうございます」
そう小さく礼を言って扉の隙間を抜けると、眩しい太陽の光に包まれた。
抜ける様な青い空には眩しい太陽が燦々と輝き、手入れの行き届いた美しい庭を照らしている。
その遥か彼方にある灰色の高い壁さえなければ、ここはとても素晴らしい場所だと思ったかもしれない。
そんな事を考えながら中庭に置かれている白いテーブルにティーセットを並べると、リイサは手際よくカップに紅茶を注いでいく。
それから甘いチョコとバニラのクッキーが並べられ、それを食べながら二人で他愛も無い話をして笑い合った。
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