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第一章一話
朝の陽光が窓から差し込むなか、御堂零(みどうれい)は惰眠を貪っていた。
目覚まし時計は既に止め、瞼に刺すような光は布団をかぶりシャットダウンしている。
「兄さん、起きてっ! もう朝ですよ! 学校、遅刻しちゃいますよ!」
ばん、と盛大な音をたて妹の一華(いちか)が部屋に入ってくる。
ベッドで寝ている零を揺さぶるが、彼は一向に起きる気配を見せない。
「んもう! 相変わらず朝が弱いんだから……」
そう呟くと彼女は零の掛け布団をめくり、いそいそと彼の隣にもぐりこむ。
彼の寝顔を数秒間堪能した後、一華は零に顔を近づけ囁いた。
「寝覚めの悪い兄さんには私から愛のキスを……」
一華の唇が零の唇に触れる寸前、零は跳ね起きた。
「お、おはよう一華っ! いつも起こしてくれてありがとう! いま起きた、起きたからっ!」
どっどっ、と零の心臓が高鳴る。妹の起こし方は寝覚めに悪い。
彼女は、チッ、と舌打ちして残念がった。
「たまにはキスさせてくれてもいいじゃないですか。そんなに嫌がらなくても」
「だ、駄目だっ。妹と兄がキスなんて、そんなの駄目だっ」
「えーっ。だってクラスの友達とか普通にやっていますよ」
零は昨今の中学生の兄妹はそういうものなのか、と思いつつも「とにかく駄目なモノは駄目だっ!」と言って、この場を乗り切ろうとした。
一華はまだ不満げだったが、
「じゃあ朝食作ってあるから早く食べてください。私は日直なので先に行きますよ」
と言って、零の寝室から出て行った。
ドアが完全に閉まるのを確認した後、零は安堵の溜息をついた。
……朝から何でこんなに疲れなければならないんだ、と零は思う。
家族である一華を疎ましいと思うことは一切無い。
むしろ彼女に自分が好かれているのは悪くない事だ。
幼い頃の一華と零の関係を比べれば、現在の方が遥かに良好と言える。
言えるのだが……。
「……どこでどう一華を育て間違えたんだろうか」と一人ごちる。
正確には勝手に育ったの間違いなのだが。
現在、零は一華と二人でマンションの一室に住んでいる。
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