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四限目になり授業は教室から化学の実験室となった。
移動している間も、彼女の周りは取り巻きが多い。
零自身も彼女と接触しようと試みていたが、なかなかタイミングが掴めないままだった。
だがここでチャンスが訪れる。
「へー、十羽乃さんって以前常盤市に住んでたんだ」
「う、うん……。でも、小さい頃に少し、しか住んでなかったから……」
零は眼前にいる彼女に話しかけながら、内心動揺していた。
まさかあの――大災害の被害者なのではないだろうか。
零と同年齢であり、彼女が小さい頃常磐に住んでいたならばその可能性もある。
実験は四人で一組の班に分かれて行う。
出席番号順なのが幸いした。
場合によっては先生の心に干渉して意図的にグループを組むことも考えていたが、それは余り実行したくなかった。
「でも何でまた戻ってきたの?」
「え……? そ、その、パパの仕事の、都合で……」
「嘘だね」と零は断言した。
彼女の肩がビクッと震えるの見て零は、しまった、と思った。
「あ、いや、違うんだ。君が答えたとき伏し目だったから別の理由があるのかと思って……。その、ごめん」
姫希は俯いた。
気まずい雰囲気が漂う中、零はライターでアルコールランプの芯に着火させる。
次の瞬間――
試験管が破裂した。
零たちの班の試験管の破裂を皮切りに、他の班の試験管も次々と割れていく。
「うわ、なんだッ!?」
「きゃっ!!」
クラスメイトが全員騒然となる。
零は愕然とした。余りにも突発な魔法の暴発に、思考が停止しかける。
(こ、こんな事ってあるのか……? 魔法の発動の兆しすらないなんて……)
姫希の方を振り向くと、彼女は床に座って顔面を蒼白にしていた。
ガタガタと身体が震えていて、唇がわなないている。
自分の体が崩れ落ちないようにと、両腕で自分を抱いている。
零は彼女に近付き「大丈夫?」と声をかける。
彼女はビクッと大きく身体を震わせると、幽霊を見るような眼差しを零に向け、
「ご……めん……な……さい」
と言って気絶した。
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