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第一章五話
「失礼します」
零は理事長室の扉を開け入った。
ノックは必要ない。
この人とはそういった間柄だ。
「ああ、零か。そこにかけてくれ」
理事長である紅蒼時(くれないそうじ)は、デスクから零にソファーに腰かけるように手振りで示した。
理事長は若々しかった。五十代とは思えない黒々とした髪。髭は丁寧に切り揃えられ、威厳が備わっている。
痩躯だが、がっしりとした体格にフィットしたジャケットを着込んでいる。鋭利な双眸は、対峙する者を圧倒する印象を与えた。
正に、ビジネスマン、といった象徴のような人だ。
(僕が子供の頃から変わらないな、この人は……)
蒼時はゆったりとした仕種でソファーに座り、煙草に火をつけ吸った。
「さて、親交を暖めたい所だが時間がもったいない。早速本題に移ろう。――零、君にはしばらく十羽乃姫希の保護を頼む」
「……その前に彼女は一体に何者なんです? 魔法使いなんですか?」
姫希はいま、保健室で寝ている。
試験管が破裂した後、彼女は保健室に運び込まれた。
何故試験管が割れたのか原因は不明で、担当教諭は教頭に原因の説明を問われている最中だろう。
「彼女は魔法の発動現象すら見られなかった。暴走現象に近いものがありますが、それとは一線を画しています。
彼女自身も、魔法をコントロールできていないようだった。……この学園にいる魔法使いの卵たちとも違います。彼らは魔法の存在すら自覚していない。なのに彼女は……」
魔法の暴走は実際にある。
それを起こさないために、彼らはこの学園に監視――保護されている。
だが彼女は違う。
十羽乃姫希はおそらく自身が魔法を使える事に気付いている。
理事長は煙草を深く吸い、吐いた。そして重い口を開く。
「十羽乃姫希は〝レプリカ〟だ」
「……なっ!?」
零は理事長の言葉に驚いた。まさかレプリカが存在するとは思わなかった。
「君ならば彼女がどれぐらい特異なのか分かってもらえると思う――魔法使いならば、その言葉の重みも理解出来るだろう?」
「それは、まあ……」
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