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第一章六話
「兄さん遅いな……」
御堂一華は校門で兄の御堂零を待っていた。
時刻は夕方の五時を回っている。
部活動や委員会に所属していない兄は、いつもだったらこの校門をくぐって帰宅していくはずなのだが……。
「もう……。また〝魔法のお仕事〟なのかな? 危ない事はあまり止めてもらいたいんだけど……」
一華は兄が魔法使いだという事を知っている。
それもとんでもないスゴ腕の魔法使いだという事も――。
彼は以前、一華を悪者から救ってくれた。
一華が魔法犯罪者の集団である『暁の風』に誘拐された時に、兄は自分の身の危険を顧みずに一華を助けてくれた。
当時の記憶はおぼろげだが、それでも兄が自分を助けてくれた事だけは憶えている。
その時から一華は兄の零に特別な想いを抱いている事に気付いた。
(最も、誘拐事件の前からも兄には特別な感情があったのだが、それを明確に自覚したのがその事件からというわけなのだ)
一華は兄を強くて、脆いと思っている。
兄は確かに強い。それこそ自分が傷つくのに一切ためらいがない位に強い。
だけど彼女は知っている。
彼が自室で一人泣きながら寝ている事を。
過去に自分が犯した罪について悔やんでいる事を、知っている。
兄は、常磐の大火災を招いた張本人だ。
その過去が兄の心を縛り付けて、自分を許せずにいるのだろう。
一華はあの大火災で生き残った数少ない生存者だ。
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