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当時、兄が大火災を招いた事を知った一華は彼をなじった。
やりばのない怒りを。
家族を失った悲しみを彼にぶつけた。
兄は決して言い訳をしたりしなかった。
一華の憎しみを真正面から受け止め、震えた声で『……ごめん』と謝った。
兄がどのような思いで孤児だった一華を引き取り生活をしてきたのか、想像に任せるしかない。
だけどそれは、ひたすら心を傷つけるものだったのではないだろうか?
互いが互いを傷つけあうものだったのではないだろうか?
大火災の生き残りである自分を兄は育ててくれた。
被害者と加害者が共に過ごすというのは、部外者からすれば、とても奇妙なものに映るだろう。
憎しみを抱いた妹と、許しを乞う兄という構図は、とても奇異なものだ。
一切口をきかない期間があり、彼が話しかけてきても無視をした。
無言の圧力で兄を苦しめ、憎悪する瞳で彼を睨んだ。
それでも兄は一華に話しかけてくるのを止めなかった。
根気よく、自分とコンタクトしようとしていた。
そんな冷えた関係が一変したのは、兄が石碑に懺悔している事を知ったからだと思う。
それは一華がまだ小学生だった頃、たまたまクラスの窓から花束を持ち校庭を歩いている兄を見かけた。
授業中だったが、担任に『保健室に行く』と嘘をつき兄を尾行した。
本音を言うと、もうその頃から兄を一華はさほど兄を恨んでいなかった。
来る日も来る日も、一華に話しかけてくる兄に対して、一華の凍てついた心は徐々に氷解していた。
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