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ただ、どうしてもしこりのようなものが心にこびりつき、素直になるの邪魔していた。
だから兄を尾行しようと思い到ったのは、彼にちゃんと謝るチャンスだと感じたからだ。
兄に気付かれないように、物陰から隠れて慎重に追跡する。
学園の裏門から彼は出て、裏山に向かった。
裏山には何もないのに、あんな場所に何の用があるんだろう、と不思議に思いながらも一華は兄の背後に続いた。
兄の歩く速度は速かった。何の迷いもなく、それこそ何度も往復する既知の道のように、迷いがなかった。
何度も通っている場所なのだろう、と一華は思った。
一定の距離を保ちながら、やがて兄が歩くのを止めた。
目的の場所に着いたのだ。
そこは、墓場だった。
学園の石碑のような立派な墓石ではなく、無骨な様相を呈した石が山の頂上にぽつんとあり、崖下には荒れ果てた廃墟が広がっていた。
墓石に兄は花束を置いて、黙祷していた。
一華は静かに彼に近付き、背後から抱きしめた。
兄は驚いていたが、何も言わずに妹を抱き静かに涙をこぼしていた――。
(あの頃なんだろうな、兄さんと私の転換期って……。『お兄ちゃん』から『兄さん』って呼び名を変えたのもあの頃だったけ……)
ふふっ、と笑みがこぼれる。
懐かしい思い出に耽っていると、一華は兄である零の姿を捉えた。
「もう、兄さん遅いッ! 私、待ちくたびれ――」
一華は息を呑む。
兄が、見知らぬ女の子と一緒に歩いていたのだ。それも手を繋ぎながら。
一華の中で、兄との関係にヒビが入った瞬間だった。
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