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「ごめん、なさい。まだ、話が、上手く分からない……」
彼は困った表情で、頬を指で掻く。
「まあ、最初はみんなそんな感じだから。
ただ、君のその力は『魔法』だって事を分かってもらえればそれでいい。
何も知らずに力に振り回されるより、概念として知っておけば怖がらずにすむし」
「……怖がらずに?」
「うん。君みたいな人は結構いるんだ。この力が何なのか分からなくて、誰にも言わずに内に秘めて……、そしてある日爆発する」
今日のようにね、と彼は寂しげに笑った。
そこで姫希はハッと気付く。化学の授業で自分の力が暴走してしまった事に。
「あ、あの……! ク、クラスのみんなは、どうなった、んですか……? 誰か、怪我とかしてませんか……?」
たどたどしく彼に訊ねる。
自分の力でこれ以上誰かが傷つくのは嫌だ。
前の学校の友達のように、誰かが傷つくのは、もう嫌だ。
「ああ、大丈夫。誰も怪我はしてないよ。無意識にキミが誰も傷つけたくない、って気持ちが働いたんだと思う。
あの騒動の原因も、地震で試験管を固定していた器具が外れたっていう認識魔法をみんなにかけて、決着はついてるはずだよ」
姫希は彼の言葉を聞いて安堵する。
その様子を見て彼は「キミは優しいんだね」と言った。
「自分の事で精一杯のはずなのに、相手を思いやれる。それって、優しくなきゃ出来ない事だよ」
「そ、そんなことないです……」
彼に真顔で言われて姫希は顔を真っ赤にした。
優しい、なんて言葉他人から聞くとは思わなかった。
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