第一章八話

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第一章八話

「へぇー、姫希さんって今日転校してきたばかりなんですか」 「う、うん。まだ、初日だから、よく、分からないことが多くて……」    台所では姫希と一華が共に料理を作っている。  と言っても、姫希はお客さんなので食器を並べるなどの簡単な手伝いだ。  本人曰く、 「あまり、料理は、得意じゃないから……」とのこと。  零は逆にやることがなく、唐突に現れたクロと一緒に、リビングでくつろいでいた。  以前は零も一華のために料理を作っていたのだが、彼女が大きくなるとその権利を剥奪されてしまった。  ちょうど、妹との仲が修復してきた頃だったと思う。  以来、家事などは全般的に一華がこなすようになっている。  楽でいいのだが、一華がしっかりしだして自分の出番がないように思い、零は少し寂しく思う。 「兄さん、ご飯が出来ましたよ!」 「ああ、いま行く」    ぐずるクロを置いて、零はテーブルに向かう。  そこには普段とは違い、豪勢な料理が並んでいた。  これは美味そうだな、と零がわくわくして椅子に座ろうとすると、「兄さんは、こっちです」と一華に止められた。  なんだろう、と思って別の椅子に座ると目の前には一本のバナナが皿の上に乗っていた。しかも生暖かい。
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