プロローグ

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 ――目を覚ますと、焼け野原に立っていた。    頭は激しく痛み、何故自分がこの場所にいるのか分からなかった。  大きな火事があったのか、周囲は見渡す限り廃墟で、映画で見た戦場の後のようだった。  まだ火が消えない廃墟を、少年はあてもなく歩き始めた。  どれだけ歩けば、この紅い世界から出られるのだろう。  火の勢いは弱まったが、周囲にはまだ炎の壁がそびえていた。  幼い少年の瞳には、それは逃れる事の叶わない檻のように映った。  たくさんのうめき声が聞こえる。  助けてくれ、と。  痛い、熱い、と。  数多の救いを求める声を、少年は耳を塞ぎながら歩み続けた。  心の中で、ごめんなさい、と謝罪の言葉を繰り返しながら歩いた。  幼い自分にも分かる。  ここは地獄なのだと。  たくさんの人たちを殺した自分の罰せられるべき世界なのだと、そう思った。 〝魔力〟がごく僅かの自分には誰も助けられない。  水の魔法が得意な両親ならば、この地獄を救ってくれるはずだ。  だから自分は生き延びて、両親に助けを求めなければならない。  それが今の自分の責務なのだ。  少年は出口の見当たらない隘路を歩み続ける。  歩み続けて、歩み続けて……。  そして――当然のように倒れた。  酸素が無くなったのか、身体が機能しなくなったのか。  どちらかは分からないが、少年は真っ赤に染まった空を見つめる。  もうすぐ自分は死ぬだろう。  唐突にそう理解した。  死ぬのは別に怖くない。  怖いのは……誰も助けられないまま終わることだった。  何も出来ないまま死ぬ事が怖かった。  だから少年は最後に魔法を唱えた。  灼け焦がす空を、雲がおおっていく。  直に雨が降り始めるはずだ。  両親のように、この煉獄の炎を完全に鎮火させる事は、自分には不可能だ。  だけどせめて、灼けて死んでいく人たちが苦しまないようにしたい。  こんな事しか出来なくてごめんなさい、と黒こげになった人たちに謝った。  少年は涙を流しながら呟く。  朦朧とする意識の中で、ごめんなさいごめんなさい、と。  雨が降り始める。  少年の意識はそこで途切れた。  少年が意識を失った直後、陽炎が生じ一人の女性が現れた。  彼女は少年を抱き、何ごとも無かったかのように、また消えた。    ――十年後――
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