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一華は「そんな事いいましたっけ?」と悪びれもせずに言った。
「とにかく、私は怒ってません。ですから兄さんの本日の夕食はそれだけです」
「………………」
これ以上の反論は徒労に終わりそうだ。
仕方なくバナナを剥き、食す。
……生温かくて、グチャッという食感が何とも言い難い。
魔法使いというのは体力、精神力を人一倍酷使しして魔法という奇蹟をこの世に現出させる。
そして妹のこの仕打ちは、僕が魔法使いだと知っているからだ。
「鬼……」
ぼそっと零が呟いたのを、一華は見逃さなかった。
「何か言いましたか?」
「いや、別に」
殺気立った沈黙が両者の間に立ちこめる。
姫希は、二人の不穏な雰囲気を感じ取ったようだが、ただおろおろとするばかりだった。
「そもそも兄さんがいけないんですよ! 兄さんが姫希さんと手を繋いだりしてるから兄さんの食事がこうなったんです!」
「どういう理屈だよ! 大体彼女の事はちゃんと説明しただろ! 彼女も魔法使いなんだ! 手ぐらい繋ぐだろ!」
「それこそ説明になってません!」
「なってるよ!」
むー、と両者がいがみってると、姫希が唐突に泣き出した。
零と一華は慌てる。
「ど、どうしたの姫希さんっ? 私たち、姫希さんをこわがらせちゃった?」
「ごめん、なさい……。誰かと、ご飯食べるのが、こんなに暖かい、なんて……思わなくて……。懐かしくて……、ごめん、なさい……」
姫希は泣き続けた。
そんな彼女を二人はただ見守る事しか出来なかった。
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