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とある事故によって両親を亡くした二人は、二人の後援者だと名乗る叔父さんに引き取られた。
と言っても、その人は親代わりをしてくれるわけでもなく、ただ二人に必要な生活費を与えてくれるだけだった。
ゆえに零と一華は、お金の件を除けば二人の力でこれまで過ごしてきたといっても過言ではない。
初めこそ零と一華の仲は険悪なものだった。
元々、見も知らずの他人同士が居住するというのは、警戒心や敵愾心が少なからずあるもの。
しかも二人の根底にある感情は更に別な要素まで含んでいた。
零は一華に対して過大な罪悪感を、
一華は零に対して過激なる憎悪を、
それぞれに抱いていた。
二人の関係は永遠に、二人が死ぬまで続くかと思われたが、月日とある事件をきっかけに解決する。
魔法使いによる一華の誘拐事件。
あの一件がなければ一華との関係は歪んだ形のまま終わっていたかもしれないな、と零は思う。
回想に耽っていると不意に、チリン、と鈴の鳴る音がした。
音のした方へ零が視線を流すと一匹の黒い猫がいた。
「ああ、クロか。おはよう」
にゃおん、と鳴き声をあげると零の膝元に乗り、ちょこんと丸くなる。
クロは神出鬼没な奴だった。
今もドアを閉めているのに、彼(彼女?)はどこからともなく現れる。
一華の誘拐事件の際に知りあった猫で、どこか超然とした雰囲気を感じさせるが、この猫が魔法を使うのをこの目にした事がない。
いっそのこと『我が輩は猫である』とでも喋ってくれれば魔法の痕跡を追跡して、正体を見破れるのだが……。
クロは知りあってからずっとこうして零の前に気まぐれに現れて、居座るだけだった。
「ほんと、きみって何者なんだろうな……」
クロの首元をくすぐると、くすぐったがって身をよじった。
少しの間、クロと戯れていると一華特製の目覚まし時計が発動した。
『兄さん、遅刻するよッ! 早く学校に行って!』
妹の目覚ましボイスを合図に、零は慌てて準備に取りかかる。
そんな零をクロは、眠たげな瞳で見つめて、くぁーっ、と欠伸をして眺めていた。
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