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第一章二話
零は駆けていた。
残念ながら一華の目覚まし時計は功を奏さなかった。
来る道の途中、老人が道に迷っている所に出くわし、道案内している内にあっという間に時間は過ぎ去った。
全て自業自得だと自戒するが、後悔はしていない。
困っている人を見過ごす人間であれば、自分はもう失格なのだ。
遅刻がばれれば一華の叱咤が飛ぶが、まあ毎度の事なので許してもらえるだろう。――多分。
腕時計を見ると時刻は八時半を指している。
この時刻になると通学路である上り坂には誰も姿が見えなくなる。
それも必然というならば必然。
零が通う学校――常磐学園は創立間もないとはいえ有名な進学校だ。
県外、県内、頭脳、運動で優秀な学籍を修めた人間をスカウトしている。
優秀な人間は遅刻などしない。
また十年前の悲劇である〝大火災〟の跡地に学園を設立したのも複数の要因があった。
まずは土地だ。
莫大な土地が廃墟として残り、誰もが途方に暮れていた所を現理事長はいち早くビジネスになる事を察知していた。
ビジネスは速さが命という彼は、大火災の土地に小中高の一貫校を創設した。
始めこそ軌道に乗らなかったものの、政財界や各メディアにコネがあった理事長は、常磐学園のコンセプトのPRを要請した。
テレビやネットを通じて大火災によって喪った人たちの経済的補助や生活を保障。
また入学する生徒達の福利厚生や安全性を親に説明した。
学校の見学等をしてもらい、何か事件や事故に巻き込まれたならば学園側が全て責任を請け負うという学園側の態度に、子供を預ける親も、納得したようだ。
『新たな世代に希望の萌芽を』という学園の理念も世論には評判が良かったらしく、県内県外問わず生徒達は殺到した。
最も光が大きければ、影もまた比例して大きくなる。
学校建築の際に事情があり手をつけられなかった場所は、取り分け大火災の被害の爪痕は生々しく残っている。
取り分け、学園の裏山は……。
零は過去の大火災の事を思い返しそうになり、頭を振った。
やめよう。
あの事件は終わった事なのだ。あの大火災を自分が引き起こしたというのは、誰も知らない。
自分の胸の内側にさえしまっておけば、誰にも気付かれはしないはずだ……。
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