第一章二話

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 暗澹とした気分で学園の上り坂を歩く。  気分は最悪だ。このまま学校をふけてしまおうか。  そんな考えが零の脳裏をよぎった所に、唐突に風が吹いた。  その風は鋭利な刃物のような鋭さを持ち、零の頬に一筋の傷をつける。 「な――ッ」  九月のこの時期に突風自体は珍しくはない。だが、今の風は……。  魔力を含んだ風に零の緊張が高まった。 『暁の風』か? 数年前、一華をさらった魔法使いの組織の連中を思い出す。  鋭い眼差しで周囲を伺うと、一人の女の子が佇んでいた。 「あ、あの……」    その子は零を申し訳なさそうに見つめている。  普通の人よりも少し色素の薄い黒髪に瞳。白い肌に顔面蒼白の顔。彼女の唇はわなわなと震えている。  まるで怯えた子犬のような印象を零は持った。  この子が魔法を?  零が近付き手を伸ばそうとした刹那、「い、いやあっ!」と言って彼女は逃げ出してしまった。  追おうかどうか迷ったが、止めた。  追った所で、怯えている彼女からは何も聞けないだろう。  そんな子から問い質す事もかわいそうだ。 「それにあの制服、ウチの学園のだったな……」    だがあんな子いただろうか?  零はある事情によって学園の高等部の面々を把握している。  ごく簡素なプロフィールであるが、彼女には見覚えがなかった。  少し珍しい時期ではあるが転校生だろうか?  別段、特別ではない。  ウチの学園の裏側の理念を鑑みれば道理だ。  魔法使いを管理、観察、監視をするという学園の理念ならば……。  放課後、理事長を訪ねよう。  こちらから訊ねなくても、向こうから連絡があるだろうが、事情も事情だ。  御堂零よりも膨大な魔力を持つ彼女を、あの理事長はどう扱うのだろうか?  零は一抹の不安を覚える。始業開始のベルの音を、零は黙って聞いていた。
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