6人が本棚に入れています
本棚に追加
暗澹とした気分で学園の上り坂を歩く。
気分は最悪だ。このまま学校をふけてしまおうか。
そんな考えが零の脳裏をよぎった所に、唐突に風が吹いた。
その風は鋭利な刃物のような鋭さを持ち、零の頬に一筋の傷をつける。
「な――ッ」
九月のこの時期に突風自体は珍しくはない。だが、今の風は……。
魔力を含んだ風に零の緊張が高まった。
『暁の風』か? 数年前、一華をさらった魔法使いの組織の連中を思い出す。
鋭い眼差しで周囲を伺うと、一人の女の子が佇んでいた。
「あ、あの……」
その子は零を申し訳なさそうに見つめている。
普通の人よりも少し色素の薄い黒髪に瞳。白い肌に顔面蒼白の顔。彼女の唇はわなわなと震えている。
まるで怯えた子犬のような印象を零は持った。
この子が魔法を?
零が近付き手を伸ばそうとした刹那、「い、いやあっ!」と言って彼女は逃げ出してしまった。
追おうかどうか迷ったが、止めた。
追った所で、怯えている彼女からは何も聞けないだろう。
そんな子から問い質す事もかわいそうだ。
「それにあの制服、ウチの学園のだったな……」
だがあんな子いただろうか?
零はある事情によって学園の高等部の面々を把握している。
ごく簡素なプロフィールであるが、彼女には見覚えがなかった。
少し珍しい時期ではあるが転校生だろうか?
別段、特別ではない。
ウチの学園の裏側の理念を鑑みれば道理だ。
魔法使いを管理、観察、監視をするという学園の理念ならば……。
放課後、理事長を訪ねよう。
こちらから訊ねなくても、向こうから連絡があるだろうが、事情も事情だ。
御堂零よりも膨大な魔力を持つ彼女を、あの理事長はどう扱うのだろうか?
零は一抹の不安を覚える。始業開始のベルの音を、零は黙って聞いていた。
最初のコメントを投稿しよう!