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第一章三話
「大体君はだな……」
零は職員室で学年主任に怒られていた。
常磐学園に着いたのは結局一限目の授業が終わる直前で、校内を彷徨っていた所を学年主任に見つかり、職員室にて再三の注意を受けている真っ最中だ。
零は神妙な顔つきをして彼の小言を軽減する働きを期待したが、遅刻の常習犯である零には一切効果がなかった。
「そもそも我が校の生徒たるものは……」となお説教にヒートアップする学年主任に「あの」と横やりが入った。
担任の四式(ししき)だ。
「すみません、田中先生。うちの御堂がご迷惑をおかけしました。
こいつには私からもきつく言い聞かせます。
そろそろ二限目が始まりますので、どうかこの辺りで……」
四式に殊勝な態度で謝られた田中は僅かに眉をしかめた。
が、授業を神聖なものとする彼は生徒を授業に出席させることを重視したようだ。
例えそれが問題児だとしても。
程なくして零は解放され、四式と職員室の外に出た。
四式の殊勝な態度はなりを潜め、本来の性格が浮き出る。
「御堂、理事長のお気に入りだからといって余り手をわずらわせるなよ」
四式は冷徹な声で言った。
「あぁ、すみません先生。少し気になる事があって……」
「大方、中央広場にでも行っていたんだろう。貴様が遅刻する理由はたいがい慰霊したあとだからな」
半分正解だが、半分間違いだ。
早朝に出逢った少女のことを四式はキャッチしていない。
この人にしては珍しいことだ。
学園の中央に位置する広場には、大火災によって死んだ人々の名前が刻まれている慰霊碑がある。
零は登校すると必ず慰霊碑に寄り祈りを捧げるという日課があった。
欠かした事は一度もない。例え遅刻してでも。
二人は教室に向かって歩きだす。
廊下を行き交う生徒達の雑音に混じり、四式は零に言う。
「御堂、貴様に一つ忠告しておくことがある」
奇妙な物言いに零は訝しむ。
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