第12章

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「ただいま。」 こっちに視線を向けてそう言うと、有村さんに 「お待たせしました。」 と、頭を下げた。 「いえ、すっかりごちそうになってしまって…。 ありがとうございました。」 「お話しできて、良かったです。」 「色々失礼なことを、すみませんでした。」 「いえ、また遊びに来てください。」 「ありがとうございます。」 それじゃあと、中田と有村さんは事務所を出ていった。 「咲田さん、Rオフィスに私と中田のことを知っている人がいるんですか?」 「あー…。」 咲田さんが視線をそらす。 ごまかされてしまいそうだけど、ちゃんと聞きたい。 「どなたですか?」 「…古森さん。」 「え。」 当時中田のことを支えていると、わざわざ私に言いに来た人だ。 「隠していたわけじゃないよ。」 「はい。 でもまだ古森さんは、中田を好きなんですか?」 「?」 「私のことを、有村さんにまで話していたらしいです。 聞かされた方も、迷惑ですよね。」 「ははは、人の気持ちはわからないよ。 だけど、知らない人を巻き込むのは、ちょっとないかなって思う。」 「絶対無しです!」 「まだ好きってところは…。 オレはなんとも言えないけど?」 困った顔でこっちを見た。 「?」 「オレも長々と、山田さんを好きなわけだし?」 「!!!」 「なーんて。 困らせてみた。」 「こ、困ります!」 コーヒーカップやお皿をトレイに乗せる。 そのまま逃げるように、給湯室へ向かう。 …確かにそうだ。 人の気持ちをどうこう言うのは、失礼だよな。 そりゃぁ、無神経なことを言われたり、意地悪をされたけど、だからって傷つけていい理由にはならない。 されたことをやり返すっていうのは、自分も最低な人間になるってこと。 …そんなのは、嫌だなぁ。 自分のことが大好きではない。 でも、だからこそ。
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