第1章

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春、 新しく始まらないって気づいたのは、いつだっただろう。 冬の次の季節なだけ。 そう思う私の心とは裏腹に、年度が変わると同時に仕事の契約は終わりになった。 高校を卒業したら、当たり前に就職できると思っていた。 でも現実は全く違った。 このまま進むときっと、結婚も出産も当たり前ではないのだろうと予想出来てしまう。 派遣会社に登録して、主に事務職をしている。 色々な商品を扱う会社があるとはいえ、事務作業はどの会社も似ていると私は思う。 契約は3ヶ月だったり、半年だったりするけれど、毎年同じなことは3月には必ず契約が終わり、更新にはならないこと。 私の能力の足りなさが問題なのかもしれないと、悩んだことも過去にはあったけれど、今となっては仕方ないものは仕方ない。 私だけの力でどうこうできるなら、とっくに打開している。 ため息を飲み込んで、新しい勤め先へ向かう。 何度経験しても、初めて出社する時には少し緊張する。 だけど、周りの視線や態度は初めの好奇心だけで、派遣と社員には永遠に埋まらない溝があるような気がしてならない。 親切にしてくれる人が多いけれど、いなくなることが前提なので、仕事も人間関係も深く知る必要がない。 わかってはいるのに、それを寂しいと思ってしまうのは、まだ現実を受け止めきれてないからかもしれない。 駅前の大通りから、少し入ったところにある3階建てのビルの2階の事務所のドアを開けた。 「失礼します。 すずらん派遣会社から参りました。 山田と申します。」 机が4つ向かい合わせになっていて、奥にはパーテーションで区切られた応接スペースがある。 「こちらにどうぞ。 社長、到着しました。」 そう言ったのは、細身で長身のメガネをかけた男性だった。 案内されるままに、応援スペースへ向かうと、ゆったりとソファに座っている人物が顔を上げた。 「!?」 思わず息を飲む。 心臓がバクバクして、血が逆流しているんじゃないかと思うほど、混乱した。 「どうぞ、座って下さい。」 余裕の笑みでそう言うのは、この会社の社長だ。 「…失礼します。」 必死で平常心を取り戻そうとする。
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