第12章

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嫌いになるってわかってることは、したくないなぁ。 カップを洗い終えて、机に戻る。 「咲田さん、今日は鍋にしませんか?」 「いいけど、中田は遅いかもよ?」 「中田とカイトには、なにか別のものを用意するので、二人で鍋しましょう?」 「ん、いいよ。」 「前に思ったんですが、居間にこたつ置いたら楽しそうですよね。」 「こたつかぁ。 …みんな居座るんじゃない?」 「やっぱりそう思います?」 「うん。」 顔を見合わせて、笑う。 「中田にも話してみましょうか?」 「すぐ買って来そうだから、ダメ。」 「あははは、そうかもですね!」 ファイルや伝票をまとめて、帰る支度をする。 「病み上がりなんですから、早く仕事終わらせて下さいね?」 「ん。 でももうちょっと片付けたいから、先に帰ってて? そんなに遅くならないから。」 「わかりました。」 ひとりで先に事務所を出た。 鍋の材料をなにか探しに、スーパーに向かう。 途中で、こちらに歩いてくるスーツ姿の人が見えた。 近づくほどに、心臓がドキリとする。 「お久しぶりです。 山田さん。」 笑っているのに、背筋がゾクリとするのは何故だろう。 「…鈴木さん。」 つい身構えてしまう。 「中田さんは、事務所にいらっしゃいますか?」 「いえ、外出してます。」 少しでも冷静になろうと、心を落ち着ける。 「残念だな…。 あ、原田さんは元気ですよ。」 「そうですか。」 「辞めた人は、気にならないって感じですか?」 悔しくて、カッとなる。 「そんなことありません。」 「山田さんも、うちに来ませんか? 歓迎しますよ?」 「遠慮させてもらいます。」 あなたは最低だと、怒りをぶつけられたら、どんなにスッキリするだろう。 …だけど、鈴木さんの会社とも仕事の繋がりはある。 それに、スッキリ…しないかもしれない。
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