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怒りをぶつけても、全てが相手に伝わるわけじゃない。
鈴木さんは、鈴木さんの思いを私にぶつけているけれど、私もそれを受けとる気持ちはない。
話し合いが無意味だなんて、そんなことは思わないけれど、わかり合う為にはわかり合いたいと思う気持ちが必要だ。
冷静になる為に、必死に色々なことを考える。
「残念だなぁ。
山田さんが来てくれると、すごく楽しいと思うんだけどな。」
「そうでしょうか。」
鈴木さんはニコニコしているのに、怖いと思ってしまう。
「山田さんに、来て欲しいなぁ。」
「申し訳ないのですが、それはできません。」
「そっか。
でも、来たくなったらいつでも連絡して下さいね?」
「わかりました。
連絡することは、ないと思いますが…。」
「今のところは…。
良かったら、今度お食事でも。」
「すみません。
それはちょっと…。」
「あ、咲田さんって、束縛するんですか?」
「答える必要ないですよね?」
「独占欲が強くて、嫉妬深くて、大変ですね。」
「あの、用事があるので、失礼します。」
終わらない会話を、無理矢理中断させる。
頭を下げて、隣をすり抜ける。
「今度連絡しますね!」
後ろから声が聞こえたけれど、早足で逃げるように、少しでも遠くへ…。
走ると負けたような気になるから、必死に足を動かす。
「あれ?フウコ?」
角を曲がったところで、中田に出くわした。
不安な気持ちで、心が押しつぶされそうで、中田を見たらホッとした。
…ホッとして、ちょっと変になっていたのかもしれない。
「中田…。」
ゆっくり近づいて、中田の胸に頭を近づけた。
「どうした?」
優しい声が、耳に響く。
「怖かったぁ。」
そっと頭を腕で抱かれて、ハッとする。
「ご!ごめん!
私、なんてことを!」
慌ててバッと身体を離して、視界に入ったのは驚いている有村さんの姿だった。
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