きっかけ

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俺も確かに最初、周りに言うのが憚られた。 だが、centerのお陰とでも言うべきか、今は世間体で見てもオタクへの偏見はすっかりと影を潜めているのが現状だ。 それを坂本に言っても、彼はいつも唸ってばかりで一向に変わらない。 無理に変えるのは酷な話なので、俺はそっとしているが。 「もう、centerのメンバーって今頃福岡に向かっているのかな。」 と坂本が急に切り出す。 坂本とcenterの話をするのは、こうして気心知れた人が周りにいる時か、俺と二人きりの時だ。 「いや、流石にこんな早くからは来ないと思うよ。centerも忙しいし…。」 いつもの坂本のちょっとピントの外れた発言も、もう俺は慣れっこだ。 centerは噂によると、年に7日前後しか休みが取れないらしい。 それを考えると今もきっと別の仕事に向かっている所なのか。 「そうか…。それにしても、やっぱり凄いな…。」 坂本の発言はすごく落ち着いていた。それはまるでいつもとは別人のようだった。きっと嫌でも明日の握手会に向けてモチベーションが上がっている証拠なのだろう。 坂本は続ける。 「特に麻友は俺らと同い年でしょ? 凄いっていうレベルじゃないよ。あの年頃の女の子なら、恋愛の一つや二つ、してもおかしくないのに。 まあ、でもcenterは恋愛禁止だからな。」 そう、centerにおいて欠かせない掟…それは"恋愛禁止"という事。 アイドルならば当然の事と、プロデューサー発案の掟で、破った者には厳しく対処するらしい。 その恋愛禁止が、今の俺には凄く辛い部分でもあり、救いでもあった。 他の人に麻友を取られることはない安堵感と、俺がもしも……本当にもしも付き合う可能性が天文学的数字の割合であったとしても、その掟で一瞬で0になるから…。 俺は「そうだな…」と頷き、東の空を紅く染め上げる朝日を眺めた。
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