君恋

今

話は大きく変わり、今は非常に蒸し暑い空間にいる。
残暑が厳しい９月の気候という要因の他に、人口密度が異常に高い。

かなり広い空間に、前後左右、人、人、そして人だ。
例えるならば、ダンボールに入ったみかんのような状態で、ほんの僅かな隙間しかない。

左隣の人に目をやると、安っぽいバンダナを頭に巻き付け、女性の顔がプリントアウトされたTシャツを身につけ、リュックを背負っている。
何より、大人しそうな容姿からは想像もつかない程の大声。

きっと翌日は声がガラガラになっている事だろう。
一人横でそんな事を考える。

そして、俺はそんな蒸し暑い状況を一気に吹き飛ばすほど、一人の女性に目が釘付けになっていた。

地面を大きく揺るがすほどの大音量に、幻想的な風景を作り出すペンライト…。

そんな最高の舞台で踊る十数人の女性。

そう、ここは…

『center』のコンサートだ。

今や日本を代表する人気アイドルグループ『center』。
彼女たちをテレビで見ない日は無いと言っても過言ではない。

そんなアイドルグループの握手会兼ライブに初めて来た俺。

そして夢中になって見とれている自分が、確かにそこにいた…。