幸せな空間

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「こっちの盛りつけ頼む」 「はい!」 どんな時にも、時間は平等に流れる。 あんな事があって、事情聴取で私も涼さんも警察に何度か呼ばれた。 自分で思う以上に、冷静な自分に正直驚いた。 『死ねばいいのに』 あの頃、あんなに怖かった言葉を、 絶望みたいに感じた言葉を、 こんなにも簡単に受け流せる自分。 冷たくなっていく手を、涼さんが救い出してくれた。 いつだって、さりげなく繋がれた手が。 今、私はここにいるんだって。 教えてくれたから。 家は、早々に退去することになった。 彼女に特定されていた事への恐怖もあるけれど、 あれだけの騒ぎになって近所の人からの冷たい目もあって。 このままオーナーの家にお世話になるのも・・・なんて考えていたわけだけど 激動の日々が始まった。 ただでさえ忘年会シーズン。 その帰りに寄るお客さんで毎年それなりに忙しいとは聞いていたけれど。 そこに内藤さんの雑誌が発売された効果が重なって満席状態が続く事になった。 いつもは予約や特別なお客さんにしか開かない個室も、相席という形で今はお客さんが溢れている。 休んでもいいと言われてるけれど、忙しくありたかった。 ボヌールの、大好きな空間に身を埋めていたかった。 1人になったら、余計な事を考えてしまうから。 いつもは気まぐれでしか作られないデザートも、いつもより多めに作っては飛ぶようになくなってしまい。 私はそんなオーナーの手伝いをしながら、久しぶりに店頭にも出ていた。 元々薄暗い店内。 化粧をすれば、もう傷はほとんど目立たないようになったから。 「もしかして絵美ちゃん?メールありがとね。クリスマスもぜひ来させてもらうよ」 「ほんとですか?ありがとうございます」 初めて会う常連さんにも何人も会った。 いつもは0時には帰るけれど、今はオーナーの家にいるから閉店まで働く様になって。 1つ1つ大事に書いて送ったメールがこうやって届いて、来てくれたお客さんに嬉しくなるばかり。
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